医療関連感染(病院感染、院内感染=healthcare-associated infections, nosocomial infections)とは、「医療施設(病院・診療所など)で、 入院後あるいは特定の病棟に転科後48時間以降に起こった感染症のこと」と定義されています。 昨今では、ノロウイルスやO-157、SARSなどが一般的にも知られています。
病院内で感染症を引き起こす原因は、主に細菌です。中でも、緑膿菌や大腸菌、 などに代表されるグラム陰性菌のほか、グラム陽性菌の黄色ブドウ球菌、腸球菌、 MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)、メチシリン耐性表皮ブドウ球菌(MRSA), VRE(バンコマイシン耐性腸球菌)などが特に重要視されています。
院内では、常に多くの患者様が何らかの抗菌薬を用いており、細菌が自然淘汰の圧力を受けています。 このような細菌にとって厳しい環境である医療施設内で生き延びた、 あるいは適応した菌は、多数存在します。つまり、薬剤に耐性を示す菌が院内にはびこっているのです。
また、これらの菌の中には、健常者の免疫力があれば感染症を起こさないような病原性の低いものもありますが、 入院患者など免疫力が低下している場合は日和見感染を引き起こす可能性があります。
特に免疫不全のある患者様などでは、真菌、ウイルスなども医療関連感染を引き起こします。
入院患者には、さまざまな医療器具が使用されます。
そのため、入院患者による感染症は、 これらの医療器具に関連して発症することが多くみられます。
また、上記のような医療器具を媒介とした感染だけではなく、人から人へも感染します。 その他、院内の床の埃や手すり、ドアノブ、ソファなどにもさまざまな細菌が潜んでいる可能性が高く、 免疫力が低下している人にとっては、医療関連感染につながる危険がいたる所に存在しているのです。
日本では、医療関連感染についての研究・対策が急速に進められているものの、 明確な歴史の把握が不十分であるのが実情です。ここでは、アメリカでの医療関連感染を中心にご紹介します。 1928年に英国でペニシリンが発見され、1942年には医療現場にペニシリンが導入されました。以降、 医療関連感染対策の必要性・重要性が認識されるようになってきました。
1942年 ペニシリンが医療に導入される
1950~60年代 全米の病院で黄色ブドウ球菌による院内感染が爆発的に増加米国病院協会(AHA)が院内感染対策として導入すべき項目を発表
1958年 英国で世界初のMRSAが報告される
1961年 米国CDCが院内感染担当官(ICP)を各病院で設置するよう勧告
1963年 米国院内感染サーベイランス(NNIS)が開始される
1970年 SENIC Projectが開始される
1974年 全米の約半数の病院で医療関連感染サーベイランスや医療関連感染対策が導入される
その後、1976年には、米国病院評価機構(JCAHO)による優良病院の認定基準に、
医療関連感染対策を実施していることなどが追加されました。このことがきっかけとなり、 1980年代には全米の病院で急速に医療関連感染対策が構築され、普及するようになりました。
アメリカで医療関連感染対策が構築された背景には、
・医療経済学的なインセンティブ(DRG/PPS、JCAHOの基準)
・院内感染対策関連の政府および学術団体の積極的推進(CDC、JCAHOなど)
・医療訴訟の増加
の3点が挙げられ、これらの相乗効果によって現在の医療関連感染対策が 確立されたのです。
アメリカでは、組織的に医療関連感染対策が行われています。
各病院には、医療関連感染いついての専門的な トレーニングを積んだ感染制御担当官(Infection Control Professionals:ICP)が存在しており、 医療関連感染対策を担当する専門の感染制御チーム(Infection Control Team:ICT)も設置されています。
ICTは、院内で生じる感染症に関連する問題に、院内の各部署と連携を取りながら対処します。
また、アメリカ政府の関連機関や病医学会などが共同で医療関連感染対策に関連するガイドラインを作成し、 対策を推進しています。
各病院は、これらのガイドラインに準ずるよう、努力しています。中には、 米国病院評価機構(JCAHO)から優良病院として認定されるのに必要となる強制力を持った基準もあり、メディケアの保険給付とも直接関連しています。
各病院では、ICTが院内のガイドラインを作成し、スタッフに教育・指導して実行を促します。 また、対策には予算も必要なので、ICTは経営・管理部門などとも調整を行います。院内のスタッフは、 各自現場で実行して結果を報告したり、効果判定のために臨床試験などを行ないます。
アメリカでの医療関連感染対策は、医療現場では院内の各部署の専門性を活かしつつ実践され、 国家レベルでもある程度統一された基準を設けるなどして実行されています。
日本では、1997年、バンコマイシンに耐性を示すメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(VISA)が 世界で初めて報告され、同時期に全国各地で大腸菌O-157による集団感染が発生しました。
1999年に、国内複数の感染症関連学会の主導によりICD(Infection Control Doctor)の認定制度がスタートしました。
2000年には、厚生労働省による医療関連感染のサーベイランスが開始されました。
現在、日本でICDの認定を受けるには、以下の条件をすべて満たしている必要があります。
ICDの認定資格は、5年ごとに一定条件を満たした上での更新が必要です。なお、ICD制度協議会では、各地でひんぱんに講習会を実施しています。
2008年11月にCDCから発表された、「医療施設における消毒と滅菌のガイドライン・2008」の概要になります。
医療施設の床面は、オフィスビルとは異なり、長尺シートやPタイル等弾性床材が多くを占めます。
そのため日常の清掃方法としては、感染対策上ホコリを舞い上げないダストコントロールの必要性から、必然的に湿式清掃が主体となるため、清掃に使用する道具としてモップが選択されることが多くなります。
除染とは、対象物の表面に付着した『汚れ』『目に見える汚れ』『目に見えない汚れ』を化学的・物理的に除去する事。 医療施設内で発生する汚れには、血液・粘液・ 分泌液・ 組織片・ 排泄物・ 無機物等が含まれる可能性が高く、これらの汚れの中には多数の病原微生物が潜んでいる。 消毒・滅菌を行う前に『汚れ』は、完全に除去しなければならない。